2021年4月14日水曜日

羊毛作家 笠木真衣さんのお話 第1回(不定期連載)

先日、北三瓶地区にあるKasagi Fiber Studioの羊毛作家 笠木真衣さんが、生地の品質やデザインを競う「ジャパン・テキスタイル・コンテスト2020」で経済産業大臣賞(最高賞)を受賞されました。

笠木さんは島根大学演習林とも関わりがある方で、何度か話す機会があった中で、羊毛や織物等について詳しくお聞きしたことがあります。

そのお話をこれから何回かに分けて、ご紹介します。

■Kasagi Fiber Studio
ホームページ https://nolifenowool.wordpress.com/
インスタグラム https://www.instagram.com/kasagifiberstudio

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-機織りをされる方に初めて会ったのですが、笠木さんはどういったきっかけで織物を始められたんですか?

笠木真衣(以下、笠木):きっかけの一つは結婚で、もう一つはお話作りです。
後に挙げましたお話作りの方からお話しますと、天女の話を書くための取材として織物体験に行きましたところとても楽しくて、それが織物との出会い、織物を始めるきっかけとなりました。


-最初は織物ではなくて、お話に興味をお持ちだったんですね。

笠木:そうなんです。最初は短大にいて、その後、大学に編入したのですが、短大時代に幼児教育科で児童文学の授業がありまして、物語の構造に興味があったので、それを受講していました。それから自分でも物語を書いてみたくなり、大学4年生の時から書き始めたんです。それまでは創作はしたことがありませんでしたけど。


-もう一つのきっかけの結婚と言いますと?

笠木:結婚し、夫の仕事のため群馬県に住むことになったんですけど、群馬県には縁もゆかりもないので、何か身につけてから行きたいなと思い、習い事として織物を始めました。

織物を習いに行ったら、織り機に経糸(たていと)が準備してあり、それは古いろくろ式の和機(わばた)の織り機だったんですけど、経糸がかかっている様が美しくて、また実際に織ってみたら楽しくて、続けたいなと思ったんです。それがきっかけのもう一つ、「結婚」でした。


-先にもお話しましたように、私にとっては笠木さんが初めて会う織物をやっている人です。というように、織物を本格的にやっている人ってそうはいないと思うんですが、たまたま近くに織物を教える人がいたんですか?

笠木:織物の先生はインターネットで探しました。長野県の農家民宿に、半年くらいかけて、2泊3日で6回くらい行き、習いました。そこでは経糸(たていと)の準備まで、つまり織る直前の準備までを習いました。その後は独学でやっています。


-独学と言いますと、本やインターネットで調べていらっしゃるわけですか?

笠木:本やインターネットも使ってはいますけど、それらでは足りない情報もたくさんありました。そういう時に頼りになったのは、織り機のメーカーさんでした。織り機のメーカーさんに電話して習ったことが一番役立ちました。

織り機にもいろんな構造があります。私が習ったのはろくろ式の和機(わばた)、4枚綜絖*(そうこう)だったんですけれど、実際に手に入れたのは洋機(ようばた)でした。

*緯糸(よこいと)を通すスペースを作るために経糸(たていと)を広げるための器具

それは中古のフィンランドの水平天秤式の織り機なのですが、私が習って来たのとは構造が全く違いました。フィンランドのトイカというメーカーの織り機だったんですけど、トイカの織り機を日本で扱っている三葉トレーディングという輸入会社に電話しまして、構造や使い方を教えていただいたりしました。

本にもいろいろと書いてはあるんですけど、なかなかそれだけでは細かいところがわかりませんので、伺いながら習得して行きました。

もう10年くらいやっていますけど、まだ完全にできているという感覚はなく、とても奥が深くて、完璧に習得するというのは、独学でも教室に通っていても、とても難しいことだと思っています。


-専業で食べている作家もいるんですか?

笠木:織物で収入を得ている方はありますけど、織物だけで食べて行けるほど稼げる織物となりますと、個人で制作するのではなく、分業で制作することになります。

経糸(たていと)の準備専門の人、糸作り専門の人…と。私は糸作りから仕上げまで一人でやっていますが、織物制作だけで生活できる人というのは、なかなか少ないかもしれませんね。

岩手県の県産品でホームスパンという織物がありまして、ウールの手紡ぎ、手織りとなりますと、日本では生産量が多く、会社があったり、個人の工房があったりはします。

島根県は織染が盛んで、羊毛ではなくコットンが主流ですね。糸を染め上げて、その糸で織物を作るのが得意な地域なのだと思います。絣ですとか。

私がしているのは羊毛を洗いから、紡ぎ、織り、仕上げまでを一人で行うというものです。


-先生が少ないのは大変ですね。

笠木:そうですね、先生のことに限らず、何かと大変だと思います。習う人も少ない、出会う機会も少ないし、月謝も安くはないですね。羊毛も手に入りにくいですし、独立したからと言って、織り機などの道具を置くスペースが必要だったりします。趣味としてもハードルが高いですね。

毛糸について言えば、編み物人口の方が多いです。


-糸を紡ぐというと、多くの方にとってはお話の世界ですよね。「眠れる森の美女」ですとか。絵本で見て知っているというくらいです。

笠木:織りだけされている方はそこそこいらっしゃいますが、紡ぎをされる方は少なく、私のように羊毛を洗うところからされる方はもっと少ないです。


-既に洗いが済んだ羊毛で作品を作る人が多いということですか?

笠木:洗って、染めて、梳かしてあるものですと、すぐに紡ぎ始められます。そういったものをスライバーとかトップと言うんですけど、それを使って、自分の好きな毛糸を作ったりすることが多いです。スピニング(糸紡ぎ)をする人をスピナーというんですけど、それはされる方は多いです。色をブレンドする楽しさがあるので、何十色もの染めた羊毛から、ではどんな色の糸を紡ごうかと楽しんでおられます。

(つづく)


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