2021年7月16日金曜日

羊毛作家 笠木真衣さんのお話 第4回(不定期連載)

(承前)

-今のお話にあった「1万9千頭」の羊というのは、織物のために飼われているとは限らないわけですよね。

笠木:そうですね、99.9%は食肉用です。


-でも、昔はその毛が活用されていたんですね。

笠木:そうです。でも、今は使われていなくて、今回、この生地を作るにあたってめん羊牧場さんに電話で伺っても、やはり困っていると言われました。また、私のように手洗い・手紡ぎでやっている者にとっても、とても質のいいもの、ファーストクラスの羊毛しか使えない。羊毛のいい部分1%ほどだけが使われているんですよね、手紡ぎ愛好家に。あとは布団になったり捨てられたりですけど、最近は布団にはあまり使ってないし、手洗いしかできないし…

-では、アパレルから頼まれた工場などは、羊毛の処理はどうしているんですか。排水処理設備をしっかりしてから、洗っているんでしょうか。

笠木:それは海外で洗っています。洗い済みのものを「スカード」って言うんですけど、スカードを輸入して、それを使っています。私たちが着ているセーターなどは、ほとんどがその洗い済み輸入羊毛を国内で加工して糸にしてできています。


-日本製のウールはほとんどないのですか?

笠木:日本製のウールはすっごくわずかです。


-海外の工場では、日本の基準では使用が認められていない薬剤を使って洗っているんでしょうか。

笠木:外国で洗いが可能なのは、排水をきれいにする高い機械が買えるかどうからしいんですよね。


-日本では、技術的には可能だけど、そんな機械を買っても採算が取れないから買わないということになるのでしょうか。

笠木:そうです。小さな町工場的な洗い工場では、高い機械を導入できなかったから潰れたと言われています。

それか、手洗い方式で薬品を使わずに洗う高い機械を買うかですね。排水を処理する機械って高いですよね。

私、今、手洗いする時はエマールを使っているんですけど、毛はすごく健康な状態で生地になってるんですよ。

羊毛についている小さな草の種などがOKで、それが自然の状態ですよって知ってもらえたら、強い薬品で羊毛を処理する必要がなくなります。植物の細片が多少ついててもいいわって言ってもらえたら、すごい小さな力で加工した羊毛の生地が流通に乗るんですよね。生地はすごく高いので、純度が高いものしか出回っていないですから。不純物が入ったマテリアルが流通してくれれば、もっと優しいのになと思うんですよ。

-これはこれで味だと思うんですけどね。最近、木材でも、「節がある方が木っぽくていい」という人もいますし。

笠木:みんな、この生地を見て、「ゴミがある」って思ったら、普段見ている生地はそれを薬剤で溶かしているって知って欲しいなって思います。「羊だって生きてて、だから漂白されたようにきれいではないの」って思ってもらえたらと思います。


(つづく)