2015年6月2日火曜日

ウツギの意外(?)な使われ方

今、三瓶演習林ではウツギが賑やかに咲いています。
このウツギについて、当演習林の元・技術補佐員である和田慎氏から寄稿いただきましたので、ご紹介します。(写真も和田氏提供)

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「夏は来ぬ」の歌に出てくる「卯の花(=ウツギ)」の季節となりました。



旧暦の4月(卯月) に咲くのでこの名が付けられたそうです(「広辞苑」)。
幹や枝が中空になっているから「空木(ウツギ)」と呼ばれるようになったとも言われます。中が空ろ(うつろ)な木でウツギ、というわけです。

ウツギの花は田植えの時期と重なるので、古くから稲作と関係の深い樹木です。隠岐諸島では「サオトメ」、旧能義郡・大原郡では「ソートメバナ」、鳥取県旧八頭・岩美郡では「タウエバナ」と呼ばれていました。(タニウツギにも同じように田植えと関係した地方名があります。)
また田を「打つ木」として旧八束郡八雲村では田打ち正月(※)にウツギを田に飾ったり、旧能義郡比田では八十八夜に苗代や本田の水口(みなくち=田へ水を引くゲート) にウツギを立てたりしていました。(ここまで、沖村義人「樹木の島根方言」P.111~P.112より)。
※田打ち正月 その年の豊作を祈って、豊作を前祝いする儀礼的な行事だそうです。多くは1月11日に行われるとか。

ウツギの開花期だけでなく純白に咲く卯の花がコメを象徴するからだとの考え方もあります(「日本民俗大辞典 上巻」P.171)。

ウツギは他の民俗行事とも関係が深いようです。

真言宗の修正会(しゅしょうえ)に因むと考えられる年頭の「オコナイ」では、ウツギで作った午王串(ごおうぐし=三角形に折った中折紙を挟んだもの)を配ったり、ウツギの杖で床を叩き災厄をはらうという行事が旧八束郡にあったそうです(石塚尊俊「日本の民俗 島根」P.161)。

それらしく再現してみますと、下の写真のようなものです。(定規と文鎮は撮影のために置いたものです。)



現在も松江市周辺に多くある「薬師さん」というお堂の年頭行事では、この午王串と考えられる御幣(※)のようなウツギが配られています。ウツギは髄の部分が中空になっているので「空木」という名がついたとの考えに従えば、神仏と通じる樹木なのでしょう。
※御幣 神道の祭具だそうです。インターネットなどで写真を調べてみられると、たぶん「これ、見たことある」と思われるでしょう。

毎年10月15日に行われる熊野大社の鑽火祭という火越こし神事では、火燧臼(ひきりうす)としてサワラ、火燧杵(ひきりきね)としてウツギが使われています(沖村義人「樹木の島根方言」P.9)。やはり神聖な樹木なのです。

ウツギはとても堅牢なので木釘として木工細工には無くてはならない材です。