2023年11月6日月曜日

秋の野花たち


アカタテハとヤマハッカ (スタッフS 画)

枕木山では、季節ごとに様々な野草を見ることができますが、秋は、春とは違った趣きで野花を楽しめる季節です。空気がひんやりと澄んでくるためか、野花にもしっとりとして凛とした印象を受けます。

目をひくのは、センニンソウ、オトコエシ、ヒヨドリバナ、キンミズヒキ、アキチョウジなど。もう10月も終わりになってしまいますが、9月から10月にかけて松江試験地周辺で見られたこれらの野花を紹介します。


センニンソウ

先ずはセンニンソウ。花期は9月頃です。これは幾本もの細長い蕊を持つ真っ白な花が美しい蔓性植物で、クレマチス(てっせん)の原種として知られています。満開の花がふんわりと辺りを覆っている様子は雪が積もったよう。合間に咲く真っ青なツユクサとのコントラストはとても爽やかです。
しかし、このセンニンソウ、茎や葉の汁に触れると炎症を起こすほどの毒性を持っているのだとか…。優美で清楚な見た目に反して恐ろしい。
名の由来は、花の後、種子から伸びた白い綿毛を仙人の白い髭になぞらえたことから来ているそうです。


オトコエシ(花)とアカスジツチバチ


オトコエシとクモガタヒョウモン(?)

次は、オトコエシ(男郎花)と、ヒヨドリバナ。これらの花は昆虫たちに人気です。しばらく見ていると何種類もの昆虫の訪れを観察することができます。アカスジツチバチ、ヒョウモンチョウの仲間、アカタテハ、南方へ渡り途中のアサギマダラなど…。どの昆虫たちも夢中になって蜜や花粉を食べて満足そうなご様子。


ヒヨドリバナ(花)とアカタテハ


オトコエシ(花)とアサギマダラ

きっとこれらの植物の花のつくりや香りには、昆虫を呼び寄せて受粉や送粉をしてもらいやすいような特徴があるのでしょう。
ちょっとだけ調べてみると、オトコエシや近縁のオミナエシには醬油や味噌などの発酵食品が腐ったような匂いがするとありました。一方でヒヨドリバナや近縁のフジバカマには甘い香りの成分が含まれているのだとか…。花の香りや成分と訪花昆虫に何か関係があるのか、詳しくは分かりませんが、虫に好かれるための理由がいろいろとありそうで興味深いです。


キンミズヒキ

そして、この時期になると毎回のように靴紐や衣類の裾にびっしりとひっつきむしのお土産をくれるのがキンミズヒキ。
データロガー周辺にたくさん生育していて、ひっつきむしを取るのは大変ですが、小さな黄金色の花の穂がかわいらしいバラ科植物です。花は10月上旬頃まで見られました。


アキチョウジ

最後に紹介するのは、群生して林道沿いを彩る薄紫色の花々。シソ科のアキチョウジです。
同じ頃に咲くよく似たシソ科の花にヤマハッカがありますが、花の大きさはアキチョウジの方が大きく、よく目立ちます。花は10月後半まで見ることができました。

季節は、いよいよ11月。晩秋の枯れ色の野山には鮮やかな黄色のツワブキが咲き始めました。ツワブキの花はよく目立つのか、冬が間近なこの時期でも昆虫たちがたくさん集まって来ます。次はツワブキの様子を覗いてみようかと考え中。
季節ごとに花々のリレーを楽しめる枕木山。これからも観察していきたいと思います。

10月おわりに スタッフS

2023年6月2日金曜日

ちびナナフシの誕生日

それは、4月19日のこと。

実験室のラジオからは、「今日は『飼育(419)の日』」ということで、リスナーが飼育しているいろいろな生物の話題を紹介する番組が流れていました。

それを聴きながら、私は、昨年初めて飼育し、今年も誕生を待っている昆虫のことを思い出しました。それは、昨夏のナナフシばらばら殺虫事件で非業の死を遂げたヤスマツトビナナフシの忘れ形見である卵たちです。

ヤスマツトビナナフシの卵
(1.5mmくらいです)

卵の形はなんとなくポリ瓶に似ていませんか?

野外では、若葉がすくすくと成長し、どこもかしこも瑞々しい緑で覆われています。ヤスマツトビナナフシの食樹であるコナラやクヌギなどの樹木も柔らかそうな葉を広げているので、もういつ生まれても食べものには困らないでしょう。
冬の間、間違って孵化しないように外気温に近い玄関に置き、時々霧吹きで水分管理してきた卵たち。
ちゃんと生きているでしょうか。もう出てくる準備は整っているのでしょうか。

こんなことを考えながら、帰宅した私が卵の入ったケースを覗き込むと…
5mmくらいの何か小さいものが、あちこちで体をくねらせながら懸命に動いています。
ついに生まれてきました! 4月19日飼育の日。この日は保管していた卵からの第一陣のちびナナフシたちの誕生日になりました!

<以下、Sが観察した時の様子を記していますが、個人的な感想や予想もあります>

あの不思議な形の卵の蓋が開き、ナナフシはそこから這い出してきます。長い触覚と脚は、卵内ではコンパクトに収納し、出る時には引っ掛からないようにするためか、胴体に沿うようにまとめられて、卵の殻の底の方の部分に固定されているように見えました。
始めのうち、脚のない生きもののように体をくねらせて卵外に出て、ある程度まで出てくると触覚や前の脚から順に、胴体から離されていきます。


帰ってきて途中から観察に参加した夫が、隣でつぶやきました。
「この卵に、この大きさの幼虫がどうやって入っているのかな? 明らかにサイズオーバーだろ」

本当にこれぞ、ナナフシの七不思議のひとつだと思います。
狭いスペースに圧縮されていたものが、外気に触れた途端にどんどん膨らむ仕組みなのでしょうか? 植物の冬芽に収納された新葉にも同じことを感じますが、自然界の超収納術にはいつも驚かされます。

けれど、脚や触覚がしっかりとまとめられ固定されていることが、ちびナナフシたちにとって無事に生まれてこられるかどうかの命運を分けているようにも見えました。
彼らの中には、脚や触覚が卵の殻にくっついたまま、うまく離れずに孵化に失敗し、死んでしまったものが何匹もいました。
人間の誕生はひとりひとりがドラマだといわれますが、こんなに小さい昆虫であっても、生まれてくるのはとても大変なこと。しかも彼らは誰にも知られずにひとりで生まれてこなければなりません…。
こんなことを考えて、何だか泣きそうになりました。こんなにセンチメンタルなので、私は研究者にはなれません。

孵化途中のヤスマツトビナナフシ幼虫
(この個体は孵化に成功しました)

脚が殻から離れずに孵化に失敗した幼虫

卵から体全体が出てきてみると体長は10mmほど。生まれたばかりの細長く半分透き通った体は、べっこうの飴細工みたいに繊細で、とても儚げな感じです。飼育ケージに入れたクヌギやミズナラの葉の陰に身を潜め、じっとしていました。

生まれて一週間ほど
(2023年4月27日撮影)

生まれてひと月ほどの脱皮直後
(2023年5月17撮影)

そして現在、誕生から一カ月以上経ち、ちびナナフシたちは数回(?)脱皮を繰り返して、まだ小さいながらも30mm以上に成長しました。
昨年飼育していた個体は、飼育を始めた時には既に終齢幼虫くらいの成長段階で、餌を食べる時以外はほとんど動かなかったため、私はナナフシを“昆虫界のナマケモノ”と呼んでいました。ところが、今飼育している幼虫たちは天井に張った寒冷紗の裏側を触覚と胴体をピコピコさせながら、とてもよく歩き回ります。
飼育ケージ(約60cm×40cm×90cm)は、かなり大きく作ってありますが、ヤスマツトビナナフシとエダナナフシが一匹ずつしかいなかった昨年と比べ、10匹くらいはいるようなので、密度が高過ぎて、新しい場所に行きたいのでしょうか。それとも何か別の理由があるのでしょうか。
餌木として入れたミズナラやクヌギの葉についた霧吹きの水滴をよく摂取し、食欲も旺盛です。今のところは順調に育ってくれており、これからの観察を楽しみにしています。

あぁ!!今年はこの子たちがカマキリに喰われませんように!!

スタッフS

2023年1月27日金曜日

もっと知りたい今年の主役

年が明けて早くも1月下旬。2023年の毎日も忙しく過ぎていきます。

表題の「主役」とは、今年の干支である卯(ウサギ)のこと。ニホンノウサギは演習林にも生息している動物です。警戒心が強いらしく、普段はなかなか姿を見られませんが、雪が降った後に残される特徴的な足跡からは、彼らが活発に暮らしていることが窺えます。


ノウサギの足跡 2020年12月21日 松江試験地で

“かわいくて弱い動物”のイメージが強いウサギちゃんですが、野生のウサギを一度目にすると、そういったイメージとはかけ離れていることに気づきます。


ノウサギの足跡 2020年12月21日 松江試験地で

私事ですが、昔、北海道でエゾユキウサギに出会ったとき、その脚がおそろしく長いのを見て、驚いたことがあります。そして体に不釣り合いなほど大きな後ろ足の強そうなこと!

なるほど、これならものすごく早くパワフルに走れるだろうなと納得しました。

後ろ足の指をいっぱいに広げて、丁寧に舐めてお手入れする様子からは、この足が、キツネやテン、そして猛禽の攻撃から生き抜くために、とても重要な武器であることが伝わってきます。
彼らはまさに“戦うウサギ”。攻撃力の強さではなく、用心深さと敏捷さを武器に持つ戦士だと思います。自然界での強さは、捕食者として強いということだけではないと実感させられたエゾユキウサギとの出会いでした。

これは、演習林に生息するニホンノウサギにも共通する強さではないでしょうか。演習林で働いていると彼らの生態を知るきっかけに巡りあうことがあるかもしれません。それがとても楽しみです。

下の写真は、スタッフOさんに見せていただいたノウサギです。昨年末、三瓶演習林に設置した自動撮影カメラに写っていたそうです。


三瓶演習林の自動撮影カメラに写っていたウサギ

雪の中を走っているようですが、毛の色は白くなっているのでしょうか。それとも夏とあまり変わっていないのでしょうか。三瓶ウサギの冬の姿、気になります。


スタッフO:その後に撮れた写真を見ますと、白黒で写っていますのではっきりとはわかりにくいのですが、どうも毛は白くなっていないようです。例えば、このように。
(かわいいウサギなんですが、植えた木をかじる困った動物でもあります)


スギ造林地で

あるいは、このように。図鑑など見てみましたら、白色になる個体と茶色のままの個体があり、積雪の多い地域では白色個体の割合が高まるといったことも書かれていました。 


三瓶演習林の落葉広葉樹二次林で

スタッフS

2022年12月23日金曜日

冬の森の宝探し ―その1―

 松江試験地へ向かう12月の山道。見通しが良くなった落葉樹の梢を通して灰色の空が広がっています。日本海から吹きつける冷たい風に運ばれた小雨が、やがてあられに変わり、カツカツと小さな音を立てながら道路や車に降り注ぎました。

葉を落としていない針葉樹や常緑樹の木々も寒々とした佇まいで、山全体がすっかり彩りを失ってしまったように見えます。

けれど、ミクロの視点で山を歩くと、冬でもたくさんの発見があります。今回はそんな冬の森の宝物をご紹介します。


計測地点で気象データと林内雨の回収を終え、周辺の林の状況を見回っていた時のこと。

林床に群生する濃緑の葉の陰から、ルビーのように透き通った赤い粒がいくつも覗いているのが見えました。今年もフユイチゴが実る季節がやってきたのです!

昨年、雪が降る中やってきた時は、真っ白な雪に鮮やかな赤い実と濃緑色の葉のコントラストがとてもきれいでした。このフユイチゴ、食べることができ、甘酸っぱくてとても美味しいのです。

そこで週末、私は小2の娘を連れて、市民に開放された広い里山を持つ近くの公園に出かけました。松江試験地で確認したため、ここでも実っていると思ったのです。家族で味わって楽しむためのフユイチゴジャムを作るのが、この日の計画でした。

公園の受付でフユイチゴを摘ませてもらうことを断った上で、森の奥へ続く道を進んでいきます。冬の森は静かで、落ち葉の甘い香りがふんわり漂ってきます。時折聞こえてくるのは、梢を渡るコゲラやカラ類、ヒヨドリの声だけ。奥に入るにつれ、フユイチゴの葉が目立つようになってきました。

フユイチゴの識別に慣れ、“イクラみたい!”とはしゃぎながら、夢中で摘んでいく娘。しゃべるのを忘れて一心不乱に摘む親(私)。目の前の実を摘んでも、少し離れた場所の実がもっと魅力的に見えてしまい、熱中してしまいます。こうして、私たちはひとしきり冬の森の宝探しを楽しみました。

やがて、「お母さん。もうすぐ袋がいっぱいだよ」という娘の声がしました。

用意してきた小袋はすっかり重くなっていました。家族で楽しむ分だけだから、“この袋がいっぱいになったら摘むのをやめよう”と娘と約束していたのです。

他にもフユイチゴを摘む人がいるかもしれないし、きっと野生動物たちにとっては貴重な冬の食糧に違いありません。美味しそうな実が、次から次に目の前に現れても欲張ってはいけないのです。

「そうだね。もう帰ろう」

私は立ち上がって娘と手をつなぎ、静かな冬の森を後にしました。

家に帰ったら、早速、ジャム作りを開始!

鍋にフユイチゴとその半分くらいの重量の砂糖を加え、とろみがつくまでゆっくり煮詰めていきます。甘酸っぱいフユイチゴジャムが完成しました!

ヨーグルトに入れてもよいし、バターを塗って焼いた熱々のパンにつけて食べると、しょっぱさと甘酸っぱさが溶け合って最高です!ジャムがある間、私たちは冬の森の様子を何度も思い出しては、森の自然の話をしました。

「もうジャムなくなっちゃうね…」

いよいよジャムが残り少なくなった時、名残惜しそうに娘が言いました。自分で摘んできて自分で作ったジャムは格別だったのでしょう。それに山の恵みはいつでも好きな時に手に入るものではないことを娘も分かっているのです。

「来年もまた摘みに行こうね」

熱心に語りかける娘に頷きかけながら、私も来年の冬を待ち遠しく思いました。


※木の実や山菜を採る時は、採ってもよい場所かどうかや、採りすぎに気をつけてお楽しみください。また、演習林では木の実や山菜等の無断での採取はできませんので、ご注意ください。


スタッフS

2022年11月28日月曜日

サヒメル科学探検隊 第4回活動を実施しました

 10月23日(日)に島根県立三瓶自然館サヒメルとの共催で、サヒメル科学探険隊の第4回「大学の研究者と一緒に活動!測って実感!樹木の大きさ」を実施しました。

三瓶演習林で実施するのは今年で5年目になります。中には毎年参加してくれている隊員も。お久しぶりです!

事務所前の大きなヒマラヤスギの直径と樹高を測る、というのが今年の探検隊のミッションです。午前は直径、午後は樹高の測定方法について学びました。

午前はまず直径を予想。「80cm!」「90cm!」元気な声が飛び交います。

次に、定規やメジャー、ノギスを使って身近な物の直径を測りました。スタッフはあえて何も説明せずに様子を見守ります。定規もノギスも使えない太い筒はどうやって測ればいいのでしょうか?メジャーを巻き付けたところで…「あ、3.14を使うんだ!」小学校で習った円周率を思い出した高学年の隊員もいる様子。さすが!

直径を測る時のルールとして、測定する位置を決めておくこと(通常は作業がしやすい地際から1.3mの高さで測定しますが、小学生なのでこの日は1.2mでやってもらいました)を確認し、実際の森林調査で使用する直径巻尺*や、輪尺という巨大なノギスを使って、実際にいろいろな木の直径を測ってもらいました。

*直径巻尺…目盛が予め3.14倍に引き伸ばされている、直径測定専用の巻尺

午前中の最後は、みんなで協力してヒマラヤスギの巨木の直径を測定。キヅタがびっしり絡みついていたのでちょっと大きめの数字ですが、93.4cmでした!隊員たちの目測はなかなか正確です。

午後はまず、身長よりずっと高い木の高さをどうやって測るのか、いろいろアイデアを出してもらいました。「高所作業車で巻き尺を伸ばして測る」「ドローンを飛ばす」等々…。「直角三角形を使って求める」という方法を知識として既に知っている隊員も。大正解!

山下多聞准教授から、直角三角形を利用して、計算で木の高さを求める方法を解説してもらいました。「木までの距離と、見上げた角度が分かったら、高さは計算で求められる」ことを確認するため、三角定規の形に切った紙とタンジェントの表を使って実際に直角三角形の高さを計算し、定規を当てて確認します。また、相似な形の3つの直角三角形を使って、タンジェントが「高さが底辺の何倍なのか」を表す数であり、角度が同じなら直角三角形の大きさに関係なく同じ数値になることを確認しました。

さて、美味しいお弁当を食べてお腹がいっぱいの午後。計算づくしで「だんだん眠くなってきたよ~。」「今日は理科じゃなくて算数なんだ~。」とややテンション下がり気味の隊員たち。小学生に三角関数はさすがにちょっと難しいか…(-_-;) ある程度予想はしていたものの、担当スタッフも焦ります。

こんな時は工作で気分転換!分度器と縫い針、ストローを使って簡単な角度計を作ってもらいました。手を動かすうちに眠気も覚めたかな?これを使って、実際に木の高さを測ってみましょう!

外に出たら、まずは午前と同じく、予想から。

「15m!」「20m!」「30m!」…「50m!!」さて、どれくらいでしょうか??

手作り角度計と巻き尺を使った方法の他に、普段の森林調査で使用している測高器も使ってもらってヒマラヤスギの高さを測りました。人気があったのがバーテックスという超音波測距計が内蔵された測高器。のぞくと照準を定めるための赤い十字が光って見えるのですが、これが「めちゃカッコイイ‼」のだそうです。

部屋に戻って山下准教授から高さの発表。結果は22mでした!

「計算が多くて、今までの探検隊の活動の中で一番疲れた~。」との声も。頑張って頭を使った一日でしたね。お疲れさまでした!

サヒメル科学探検隊のホームページはこちらをご覧ください。

 サヒメル科学探検隊