2022年11月28日月曜日

サヒメル科学探検隊 第4回活動を実施しました

 10月23日(日)に島根県立三瓶自然館サヒメルとの共催で、サヒメル科学探険隊の第4回「大学の研究者と一緒に活動!測って実感!樹木の大きさ」を実施しました。

三瓶演習林で実施するのは今年で5年目になります。中には毎年参加してくれている隊員も。お久しぶりです!

事務所前の大きなヒマラヤスギの直径と樹高を測る、というのが今年の探検隊のミッションです。午前は直径、午後は樹高の測定方法について学びました。

午前はまず直径を予想。「80cm!」「90cm!」元気な声が飛び交います。

次に、定規やメジャー、ノギスを使って身近な物の直径を測りました。スタッフはあえて何も説明せずに様子を見守ります。定規もノギスも使えない太い筒はどうやって測ればいいのでしょうか?メジャーを巻き付けたところで…「あ、3.14を使うんだ!」小学校で習った円周率を思い出した高学年の隊員もいる様子。さすが!

直径を測る時のルールとして、測定する位置を決めておくこと(通常は作業がしやすい地際から1.3mの高さで測定しますが、小学生なのでこの日は1.2mでやってもらいました)を確認し、実際の森林調査で使用する直径巻尺*や、輪尺という巨大なノギスを使って、実際にいろいろな木の直径を測ってもらいました。

*直径巻尺…目盛が予め3.14倍に引き伸ばされている、直径測定専用の巻尺

午前中の最後は、みんなで協力してヒマラヤスギの巨木の直径を測定。キヅタがびっしり絡みついていたのでちょっと大きめの数字ですが、93.4cmでした!隊員たちの目測はなかなか正確です。

午後はまず、身長よりずっと高い木の高さをどうやって測るのか、いろいろアイデアを出してもらいました。「高所作業車で巻き尺を伸ばして測る」「ドローンを飛ばす」等々…。「直角三角形を使って求める」という方法を知識として既に知っている隊員も。大正解!

山下多聞准教授から、直角三角形を利用して、計算で木の高さを求める方法を解説してもらいました。「木までの距離と、見上げた角度が分かったら、高さは計算で求められる」ことを確認するため、三角定規の形に切った紙とタンジェントの表を使って実際に直角三角形の高さを計算し、定規を当てて確認します。また、相似な形の3つの直角三角形を使って、タンジェントが「高さが底辺の何倍なのか」を表す数であり、角度が同じなら直角三角形の大きさに関係なく同じ数値になることを確認しました。

さて、美味しいお弁当を食べてお腹がいっぱいの午後。計算づくしで「だんだん眠くなってきたよ~。」「今日は理科じゃなくて算数なんだ~。」とややテンション下がり気味の隊員たち。小学生に三角関数はさすがにちょっと難しいか…(-_-;) ある程度予想はしていたものの、担当スタッフも焦ります。

こんな時は工作で気分転換!分度器と縫い針、ストローを使って簡単な角度計を作ってもらいました。手を動かすうちに眠気も覚めたかな?これを使って、実際に木の高さを測ってみましょう!

外に出たら、まずは午前と同じく、予想から。

「15m!」「20m!」「30m!」…「50m!!」さて、どれくらいでしょうか??

手作り角度計と巻き尺を使った方法の他に、普段の森林調査で使用している測高器も使ってもらってヒマラヤスギの高さを測りました。人気があったのがバーテックスという超音波測距計が内蔵された測高器。のぞくと照準を定めるための赤い十字が光って見えるのですが、これが「めちゃカッコイイ‼」のだそうです。

部屋に戻って山下准教授から高さの発表。結果は22mでした!

「計算が多くて、今までの探検隊の活動の中で一番疲れた~。」との声も。頑張って頭を使った一日でしたね。お疲れさまでした!

サヒメル科学探検隊のホームページはこちらをご覧ください。

 サヒメル科学探検隊

2022年11月25日金曜日

演習林の小さな旅人

 “渡り”をする生きものというと真っ先に鳥類を思い浮かべる人が多いと思いますが、演習林にはもっと小さな旅人も訪れます。

 ――アサギマダラ―― “海を渡る蝶”として有名な昆虫です。

9月下旬の松江試験地。山全体が秋の装いへと変化していく季節。車で走る窓辺からは、紫や白の秋の野花が目立つようになります。車を停めてきちんと特定してはいないのですが、紫色の花はアキチョウジやヤマハッカ、白い花はヨツバヒヨドリかヒヨドリバナが主だと思われます。

…と、それらの花々の間を、黒い前翅と褐色の後翅のそれぞれに浅葱色の斑点を持つ大型の美しい蝶がゆったりと舞っていきました。アサギマダラです。


アサギマダラの渡りについては、日本各地で研究者や有志の方によるマーキング調査が行われており、移動ルートが解明されつつあります。なんでも春には遥か南の台湾や南西諸島方面から日本各地に飛来して繁殖し、秋には新しい世代が逆ルートで南下していくのだとか…。小さい昆虫ながら驚異的な移動能力です。

「海を渡っているときは、どうやって休息を取っているのか?」、「鳥類のように食べものの確保が渡りのカギなのか」、「長距離飛行できる翅の仕組みは?」など、神秘的なその生態に興味を掻き立てられずにはいられません。

松江試験地では、春(6月頃)と秋(9月~10月頃)に林縁部の草花を訪れているアサギマダラを観察することができました。特にヨツバヒヨドリ、ヒヨドリバナ、コセンダングサの花がお気に入りのようです。Y先生によると、三瓶演習林でもアサギマダラを見かけるとのこと。三瓶自然館サヒメルのHPでも紹介されていましたので、こちらでもこの蝶に出会うことができそうですね。



余談ですが、アサギマダラを彷彿とさせる、知る人ぞ知る一行詩があります。

――てふてふが一匹 韃靼海峡を渡って行った―― (安西冬衛『春』)

韃靼海峡というのは、樺太とユーラシア大陸を隔てる間宮海峡のことで、“韃靼(だったん)”という響きは硬くて大陸的なものを感じさせます。それに対して、“てふてふ”は柔らかで儚げな印象です。アサギマダラの分布域を考えると、実際には、この詩の“てふてふ”は別種の蝶を考える方が自然かもしれません。
けれど、この詩を目にするたびに、小さく儚げでありながらも、その生を全うする意志を持って海の彼方へ飛び立っていくアサギマダラを思い出し、その力強さを感じずにはいられないのです。

スタッフS

<参考>
「東京大学総合研究博物館 アサギマダラとオオカバマダラ ~渡りをする蝶~」