2023年6月2日金曜日

ちびナナフシの誕生日

それは、4月19日のこと。

実験室のラジオからは、「今日は『飼育(419)の日』」ということで、リスナーが飼育しているいろいろな生物の話題を紹介する番組が流れていました。

それを聴きながら、私は、昨年初めて飼育し、今年も誕生を待っている昆虫のことを思い出しました。それは、昨夏のナナフシばらばら殺虫事件で非業の死を遂げたヤスマツトビナナフシの忘れ形見である卵たちです。

ヤスマツトビナナフシの卵
(1.5mmくらいです)

卵の形はなんとなくポリ瓶に似ていませんか?

野外では、若葉がすくすくと成長し、どこもかしこも瑞々しい緑で覆われています。ヤスマツトビナナフシの食樹であるコナラやクヌギなどの樹木も柔らかそうな葉を広げているので、もういつ生まれても食べものには困らないでしょう。
冬の間、間違って孵化しないように外気温に近い玄関に置き、時々霧吹きで水分管理してきた卵たち。
ちゃんと生きているでしょうか。もう出てくる準備は整っているのでしょうか。

こんなことを考えながら、帰宅した私が卵の入ったケースを覗き込むと…
5mmくらいの何か小さいものが、あちこちで体をくねらせながら懸命に動いています。
ついに生まれてきました! 4月19日飼育の日。この日は保管していた卵からの第一陣のちびナナフシたちの誕生日になりました!

<以下、Sが観察した時の様子を記していますが、個人的な感想や予想もあります>

あの不思議な形の卵の蓋が開き、ナナフシはそこから這い出してきます。長い触覚と脚は、卵内ではコンパクトに収納し、出る時には引っ掛からないようにするためか、胴体に沿うようにまとめられて、卵の殻の底の方の部分に固定されているように見えました。
始めのうち、脚のない生きもののように体をくねらせて卵外に出て、ある程度まで出てくると触覚や前の脚から順に、胴体から離されていきます。


帰ってきて途中から観察に参加した夫が、隣でつぶやきました。
「この卵に、この大きさの幼虫がどうやって入っているのかな? 明らかにサイズオーバーだろ」

本当にこれぞ、ナナフシの七不思議のひとつだと思います。
狭いスペースに圧縮されていたものが、外気に触れた途端にどんどん膨らむ仕組みなのでしょうか? 植物の冬芽に収納された新葉にも同じことを感じますが、自然界の超収納術にはいつも驚かされます。

けれど、脚や触覚がしっかりとまとめられ固定されていることが、ちびナナフシたちにとって無事に生まれてこられるかどうかの命運を分けているようにも見えました。
彼らの中には、脚や触覚が卵の殻にくっついたまま、うまく離れずに孵化に失敗し、死んでしまったものが何匹もいました。
人間の誕生はひとりひとりがドラマだといわれますが、こんなに小さい昆虫であっても、生まれてくるのはとても大変なこと。しかも彼らは誰にも知られずにひとりで生まれてこなければなりません…。
こんなことを考えて、何だか泣きそうになりました。こんなにセンチメンタルなので、私は研究者にはなれません。

孵化途中のヤスマツトビナナフシ幼虫
(この個体は孵化に成功しました)

脚が殻から離れずに孵化に失敗した幼虫

卵から体全体が出てきてみると体長は10mmほど。生まれたばかりの細長く半分透き通った体は、べっこうの飴細工みたいに繊細で、とても儚げな感じです。飼育ケージに入れたクヌギやミズナラの葉の陰に身を潜め、じっとしていました。

生まれて一週間ほど
(2023年4月27日撮影)

生まれてひと月ほどの脱皮直後
(2023年5月17撮影)

そして現在、誕生から一カ月以上経ち、ちびナナフシたちは数回(?)脱皮を繰り返して、まだ小さいながらも30mm以上に成長しました。
昨年飼育していた個体は、飼育を始めた時には既に終齢幼虫くらいの成長段階で、餌を食べる時以外はほとんど動かなかったため、私はナナフシを“昆虫界のナマケモノ”と呼んでいました。ところが、今飼育している幼虫たちは天井に張った寒冷紗の裏側を触覚と胴体をピコピコさせながら、とてもよく歩き回ります。
飼育ケージ(約60cm×40cm×90cm)は、かなり大きく作ってありますが、ヤスマツトビナナフシとエダナナフシが一匹ずつしかいなかった昨年と比べ、10匹くらいはいるようなので、密度が高過ぎて、新しい場所に行きたいのでしょうか。それとも何か別の理由があるのでしょうか。
餌木として入れたミズナラやクヌギの葉についた霧吹きの水滴をよく摂取し、食欲も旺盛です。今のところは順調に育ってくれており、これからの観察を楽しみにしています。

あぁ!!今年はこの子たちがカマキリに喰われませんように!!

スタッフS

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