2022年12月23日金曜日

冬の森の宝探し ―その1―

 松江試験地へ向かう12月の山道。見通しが良くなった落葉樹の梢を通して灰色の空が広がっています。日本海から吹きつける冷たい風に運ばれた小雨が、やがてあられに変わり、カツカツと小さな音を立てながら道路や車に降り注ぎました。

葉を落としていない針葉樹や常緑樹の木々も寒々とした佇まいで、山全体がすっかり彩りを失ってしまったように見えます。

けれど、ミクロの視点で山を歩くと、冬でもたくさんの発見があります。今回はそんな冬の森の宝物をご紹介します。


計測地点で気象データと林内雨の回収を終え、周辺の林の状況を見回っていた時のこと。

林床に群生する濃緑の葉の陰から、ルビーのように透き通った赤い粒がいくつも覗いているのが見えました。今年もフユイチゴが実る季節がやってきたのです!

昨年、雪が降る中やってきた時は、真っ白な雪に鮮やかな赤い実と濃緑色の葉のコントラストがとてもきれいでした。このフユイチゴ、食べることができ、甘酸っぱくてとても美味しいのです。

そこで週末、私は小2の娘を連れて、市民に開放された広い里山を持つ近くの公園に出かけました。松江試験地で確認したため、ここでも実っていると思ったのです。家族で味わって楽しむためのフユイチゴジャムを作るのが、この日の計画でした。

公園の受付でフユイチゴを摘ませてもらうことを断った上で、森の奥へ続く道を進んでいきます。冬の森は静かで、落ち葉の甘い香りがふんわり漂ってきます。時折聞こえてくるのは、梢を渡るコゲラやカラ類、ヒヨドリの声だけ。奥に入るにつれ、フユイチゴの葉が目立つようになってきました。

フユイチゴの識別に慣れ、“イクラみたい!”とはしゃぎながら、夢中で摘んでいく娘。しゃべるのを忘れて一心不乱に摘む親(私)。目の前の実を摘んでも、少し離れた場所の実がもっと魅力的に見えてしまい、熱中してしまいます。こうして、私たちはひとしきり冬の森の宝探しを楽しみました。

やがて、「お母さん。もうすぐ袋がいっぱいだよ」という娘の声がしました。

用意してきた小袋はすっかり重くなっていました。家族で楽しむ分だけだから、“この袋がいっぱいになったら摘むのをやめよう”と娘と約束していたのです。

他にもフユイチゴを摘む人がいるかもしれないし、きっと野生動物たちにとっては貴重な冬の食糧に違いありません。美味しそうな実が、次から次に目の前に現れても欲張ってはいけないのです。

「そうだね。もう帰ろう」

私は立ち上がって娘と手をつなぎ、静かな冬の森を後にしました。

家に帰ったら、早速、ジャム作りを開始!

鍋にフユイチゴとその半分くらいの重量の砂糖を加え、とろみがつくまでゆっくり煮詰めていきます。甘酸っぱいフユイチゴジャムが完成しました!

ヨーグルトに入れてもよいし、バターを塗って焼いた熱々のパンにつけて食べると、しょっぱさと甘酸っぱさが溶け合って最高です!ジャムがある間、私たちは冬の森の様子を何度も思い出しては、森の自然の話をしました。

「もうジャムなくなっちゃうね…」

いよいよジャムが残り少なくなった時、名残惜しそうに娘が言いました。自分で摘んできて自分で作ったジャムは格別だったのでしょう。それに山の恵みはいつでも好きな時に手に入るものではないことを娘も分かっているのです。

「来年もまた摘みに行こうね」

熱心に語りかける娘に頷きかけながら、私も来年の冬を待ち遠しく思いました。


※木の実や山菜を採る時は、採ってもよい場所かどうかや、採りすぎに気をつけてお楽しみください。また、演習林では木の実や山菜等の無断での採取はできませんので、ご注意ください。


スタッフS