-笠木さんは羊を飼うところからされているんですね。まず羊の毛を刈って、刈ったものをどこかで洗ってもらうんですか?
笠木:いえ、それも自分で洗っています。
羊の毛には脂とゴミが付いているので、それらを別々の工程で除去します。
脂は、羊の種類にもよりますけど、大体は100℃以内で溶かせますので、45~70℃のお湯に中性洗剤を溶かし、それに浸して、まず脂を溶かし出します。
毛先には泥が付いているので、それを揉み洗いします。
汚れた毛を持って来てみました。
-これは笠木さんが飼われている羊の毛ですか?
笠木:そうです。触ってみられると、ちょっと脂っこいのがわかりますか?
-ラノリンって、これのことですか?
笠木:そうです。毛を触るとネトネトしていると思うんですけど、これこそがラノリン(羊が分泌する脂分)です。
脂の次は汚れとゴミを落とします。毛刈りは1年に1回なので、毛先の方は泥などで汚れています。これも洗います。次に、毛に草の種などがついていますので、これを手で一つずつ取って行きます。
市販の毛、先程お話しましたスライバーやトップにはこういったものがついていないですよね。それは、化炭(かたん)処理といって、強い酸に浸けて、温度を200℃に上げて、次にアルカリに浸けて中和する処理をしたもの、つまり化学的に処理したものです。
-市販のものはゴミを薬品で溶かしてしまっているわけですか。
笠木:そうです。ですので、毛は傷みますので、手洗いの方がタンパク質が良質に保たれるというメリットがあります。
10年くらいかけて、いろんなものを作ってみました。
これが手紡ぎ糸で、こちらが売っている糸(左上の糸)です。強撚(きょうねん)糸です。
初心者の方は最初はマフラーやショールなどを、柔らかいメリノとかポロワスといった種類の羊の毛を使って、首回りに使うものから織ります。
-このような状態になるまでに、どのような工程があるのですか?
笠木:まず、刈り取る、洗う、ほぐす、梳かす、紡ぐ、です。-「紡ぐ」の部分では、昔話に出て来るようなクルクル回す道具で糸を作って行くんですか?
笠木:そうです。ただ、単にクルクル回しているわけではなくて、紡ぎ車を足で踏みながら糸に回転を加えて行きます。50cmの間に7回踏むと強撚になるし、5回なら普通だし…と調整します。
また、糸の方向に対して繊維が斜め45°になるのが普通の糸なんですけど、角度をつけると強撚になって行きます。
-そうすると撚(よ)りながら数えるんですか?
笠木:そうです。ですから、1000mの糸を作ったりするんですけど、それを全部同じ撚りにするのは、すごく技術が必要です。
まず自分が作りたい糸をしっかりイメージして、それを作ります。
-イメージと言いますと、糸の色も変えられるんですね。
笠木:そうです。例えば、こちらは北海道のサフォーク、白い羊です。こちらがブラックウェリッシュマウンテンという黒い羊の濃茶とサフォークの白を混ぜて作った色です。白も濃茶も、それぞれの羊の品種の毛そのままの色です。
-色を混ぜるのは、糸を紡ぐ時に行うんですか?
笠木:いえ、梳かす時です。カーディングと言うんですけど、繊維を混ぜる工程で、梳かしながら混ぜます。
-こちらも羊の毛元々の色ですか?
これはショールです。経(たて)は普通の手紡ぎ糸で、緯(よこ)は強撚の手紡ぎ糸です。緯糸の撚りによってで縮ませています。
-そうしてできた糸を、これまた昔話になりますが、「鶴の恩返し」のように、あるいは私が子どもの頃にあったようなおもちゃ「おりひめ」のように、経緯(たてよこ)に組んだ糸をトントンしながら、布にしていくわけですか?
笠木:そうです。1cmの間にこの糸が何本あるかを定規で測りながら、織って行きます。経(たて)が5本、緯(よこ)が5本を1:1って言うんですけど、それを比率をかえて緯の数を少なくするデザインにするなど、手織りだと自由にできます。
-そうすることによって、生地の模様が変わって行くわけですか。このようにシワが入るとか。
-最初にどういう布を作ろうとイメージして、何本入れるかを設計して作り始められるわけですね。
間違えて経糸(たていと)をセットしたりすると、間違えたところだけ解いて、通しなおします。
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