今回の主人公は、英語で“lace bug”(レースバグ)、と呼ばれる昆虫です。
和名では、“グンバイムシ”。
その名の由来は、戦国武将や相撲の行司が持っている“軍配”にかたちが似ていることから。
半翅目(カメムシ目)に属する彼らは、花木や果樹を吸汁する害虫です。
しかし、体長3、4㎜ととても小さいため、この虫を知らない人が圧倒的に多いことでしょう。
リターの中には彼らの痕跡が見られます。少しではありますが彼らの姿をご紹介したいと思います。
写真は6月のリターに入っていたグンバイムシの左右の前翅です。
顕微鏡を用いて、初めてこの翅を見たとき、なんてきれいなのだろうと思わず見とれてしまいました。多角形に区切られた小さな翅室(※)がモザイクタイルのように並び、薄い透明な膜が光を通してキラキラと輝いています。グンバイムシを調べる中で、“まるでステンドグラスのようだ”という記述をたくさん見かけました。私もまさにその通りだと思います。
どうでしょう?この翅をモチーフにピアスやイヤリングをデザインしてみるのは。
なかなか素敵なものができると思いませんか?
翅室ひとつひとつに透き通った色を入れます。何色もつかって彩り豊かにしてもよいし、同系色のグラデーションにしてもよいかもしれません。こんな想像(創造)をするときっと楽しいですよね。
翅の模様や演習林内で食樹になりそうな樹種を考え合わせて、トサカグンバイの翅ではないかと思っています。トサカグンバイはアセビを好んで吸汁するそうで、この樹種は三瓶演習林に多く自生していますから。けれど、同属(Stephanitis属)内にはとてもよく似た種がいるので、翅だけで断定はできません。
同じ6月の別地点のリターでは、別種のグンバイムシも見られました。
こちらの翅は英名のlace bugの名により近い雰囲気を持っているように感じます。背景が白いと分かりづらいので、黒くしてみると、白っぽいグンバイムシの姿が浮き上がってきました。
細かいギザギザの縁取りがある、レース編みで作られたかのような翅を纏っています。翅だけでなく、胸部から横に大きく張り出した翼状の部分も、まるでヨーロッパの貴族の肖像画で見かける大きなレースの襟のよう。なるほどね、呼び名に納得、lace bug(レースバグ)!!
グンバイムシは害虫くんの一面もありますが、和名の由来になった体のカタチにしても、英名の由来になった翅の模様にしても、ユニークさにおいては格別ではないでしょうか。
さて、この白っぽいグンバイムシは、おそらくアワダチソウグンバイではないかと思います。ほんの四半世紀ほど前に移入が確認された北米原産の外来種で、同じく北米原産の侵略的外来種であるセイタカアワダチソウを好んで吸汁するとのこと。一方で、一部の農作物にも吸汁被害を出すそうです。
この虫がいるということは演習林付近にもセイタカアワダチソウが生えているのでしょうか?
けれど、林縁や道脇、林内のギャップならともかく、リターの回収を行っているのは広葉樹二次林の中。いくら繁殖力旺盛なセイタカアワダチソウといえど適した環境ではありません。他のキク科植物にもつくそうなので、そちらからきたのかもしれませんが、いずれにしても寄主植物に心当たりがなく、どうして入っていたのかは分かりません。
ちょっと不安が残る発見ではありました。三瓶の自然環境への悪い兆候ではありませんように。
最後に、素人の拙い思いつきではありますが、研究材料としてのグンバイムシについて書きます。
先ず、グンバイムシの種類を調べる中で、かなり多くの種が寄主である植物の名を冠した種名であることが印象的でした。
(例・ツツジグンバイ、ナシグンバイ、プラタナスグンバイなど)
その理由は、どうやら彼らの寄主特異性が非常に高く、単食性や狭食性であるという性質からきているようでした。こういう生き物は、寄主植物の分布によって自らの分布(移動)をかなり制限されるはずです。
しかも、相当に小さい昆虫ですから、グンバイムシ自身の飛翔能力もそんなには高いとは思えません。
一方で風には運ばれやすいかもしれませんが…
移動を制限されると、離れた寄主植物上の同種との繁殖にも影響が出るでしょうから、寄種植物間の距離の違いによる近親交配の度合いとか調べたら面白いかもしれないなぁ、などと思いました。
グンバイムシは細かくて見つけるのが大変というのはありますが、その分、フィールドは狭くて良さそうなので体力勝負よりは観察が得意な学生さんには向く研究材料かもしれません。
森林や農作物や昆虫分野の学生さん、誰か卒論や修論でやらないかなぁ…。
もちろん素人のつぶやきなので、研究材料にする場合はちゃんと指導教官の方と話し合ってから、ですが(笑)
(※)翅室 昆虫の翅の表面にある網目状のすじの部分(翅脈)に囲まれた部分のこと
(※)グンバイムシが見つかったリター 20190606 50-30/90-10
スタッフS