2015年12月25日金曜日

今日はクリスマス。クリスマスといえば…

年の瀬が近づいて来ましたね。このブログについては、これが年内は最後の投稿となるでしょう。「そもそも、元々そんなに更新してないでしょう」って話ではあるんですが…

さて、今日はクリスマス。クリスマス・ツリーに使われるのは、もみの木。「おお、モミの木よ」というクリスマス・ソングもあり、例えばナット・キング・コールが歌うこの歌とか素敵ですよね。
(必ずしもモミAbies firmaとは限らず、その土地土地のああいう感じの木をツリーにしているようではありますが…)


このモミについて、当演習林の元・技術補佐員である和田慎氏から寄稿いただきましたので、ご紹介します。

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 三瓶演習林の事務所前には大きなモミがあります。樹高は20m以上あります。


 モミといえば「クリスマス・ツリー」を思い浮かべることでしょう。
 「クリスマス・ツリー」はドイツ文化圏に起源を持つとと言われています。 “黒い森”で有名なドイツ南西部のフライブルグ近郊では、古代からモミの木を崇拝していたそうです。

*写真提供は和田慎氏。

 モミの木は四季をを通じて葉をつけることから、闇と死と寒さが支配する冬の世界にあって希望と堅実さのシンボルとされ、冬至の祭りで使われていたのがクリスマスと結びついたと考えられています。しかし、これがドイツ全体に広まったのは19世紀になってからだとのこと。(ただし、ドイツモミはマツ科トウヒ属で、モミはマツ科モミ属。)

 またドイツでは、モミには生長の霊が宿るとして、家の棟上式で破風の上に飾られたり、家畜小屋の扉に飾って悪疫除けにも使われていたそうです。(以上は平凡社「世界大百科」モミ項を要約)

 さて、話が変わるようですが、冬になると山陰地方では「赤貝」(サルボウガイ)がよく出回ります。近年はほとんどが有明海産です。1950年代には中海で年間約1900トンの漁獲高があったそうですが、干拓事業や生活廃水による水質悪化でほとんど獲れなくなりました。
 最近、中海での試験養殖が成功し、今年は11月29日から松江市内での中海産赤貝の販売が始まりました(かなり割高‥‥)。

 それがモミとどう関係があるかと言いますと、1960年代前半まで中海の赤貝漁では「ソリコ」という刳り舟(モミの木を刳り抜いて作った舟)が使われていました。

*写真提供は和田慎氏。島根県立古代出雲歴史博物館の許可を得て掲載しています。

 「ソリコ」は舟の底面(オモキ)が大きく反っていてローリング(横揺れ)しやすく、赤貝漁で使う「アカガイケタ(赤貝桁)」という漁具を曳く際に海底の泥砂に懸かりにくい構造であったそうです。
 
 1960年代前期、島根県で「ソリコ」を製作できる船大工は3名いたそうです(旧地名:八束郡八束村入江のY氏・松江市大海崎のF氏・八束郡東出雲町下意東のW氏=石塚尊俊著「鑪と刳船」P.299)。
 中海で赤貝漁が復活しても「ソリコ」を作ることのできる船大工は既に途絶えているので、「ソリコ」漁を見ることはできないでしょう。

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やあ、何とかクリスマスに間に合った… 島根県立古代出雲歴史博物館の学芸員の方にはお世話になりました。ありがとうございました。

それでは、みなさま、よいクリスマスを。

2015年6月2日火曜日

ウツギの意外(?)な使われ方

今、三瓶演習林ではウツギが賑やかに咲いています。
このウツギについて、当演習林の元・技術補佐員である和田慎氏から寄稿いただきましたので、ご紹介します。(写真も和田氏提供)

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「夏は来ぬ」の歌に出てくる「卯の花(=ウツギ)」の季節となりました。



旧暦の4月(卯月) に咲くのでこの名が付けられたそうです(「広辞苑」)。
幹や枝が中空になっているから「空木(ウツギ)」と呼ばれるようになったとも言われます。中が空ろ(うつろ)な木でウツギ、というわけです。

ウツギの花は田植えの時期と重なるので、古くから稲作と関係の深い樹木です。隠岐諸島では「サオトメ」、旧能義郡・大原郡では「ソートメバナ」、鳥取県旧八頭・岩美郡では「タウエバナ」と呼ばれていました。(タニウツギにも同じように田植えと関係した地方名があります。)
また田を「打つ木」として旧八束郡八雲村では田打ち正月(※)にウツギを田に飾ったり、旧能義郡比田では八十八夜に苗代や本田の水口(みなくち=田へ水を引くゲート) にウツギを立てたりしていました。(ここまで、沖村義人「樹木の島根方言」P.111~P.112より)。
※田打ち正月 その年の豊作を祈って、豊作を前祝いする儀礼的な行事だそうです。多くは1月11日に行われるとか。

ウツギの開花期だけでなく純白に咲く卯の花がコメを象徴するからだとの考え方もあります(「日本民俗大辞典 上巻」P.171)。

ウツギは他の民俗行事とも関係が深いようです。

真言宗の修正会(しゅしょうえ)に因むと考えられる年頭の「オコナイ」では、ウツギで作った午王串(ごおうぐし=三角形に折った中折紙を挟んだもの)を配ったり、ウツギの杖で床を叩き災厄をはらうという行事が旧八束郡にあったそうです(石塚尊俊「日本の民俗 島根」P.161)。

それらしく再現してみますと、下の写真のようなものです。(定規と文鎮は撮影のために置いたものです。)



現在も松江市周辺に多くある「薬師さん」というお堂の年頭行事では、この午王串と考えられる御幣(※)のようなウツギが配られています。ウツギは髄の部分が中空になっているので「空木」という名がついたとの考えに従えば、神仏と通じる樹木なのでしょう。
※御幣 神道の祭具だそうです。インターネットなどで写真を調べてみられると、たぶん「これ、見たことある」と思われるでしょう。

毎年10月15日に行われる熊野大社の鑽火祭という火越こし神事では、火燧臼(ひきりうす)としてサワラ、火燧杵(ひきりきね)としてウツギが使われています(沖村義人「樹木の島根方言」P.9)。やはり神聖な樹木なのです。

ウツギはとても堅牢なので木釘として木工細工には無くてはならない材です。

2015年4月6日月曜日

椿について、年配の方に聞きました(後編)

前回に続きまして、松江市在住の90歳代前半の方からお聞きした話をご紹介します。

今回は、前回の椿の実を煮て油を採る方法に続きまして、搾油所に持って行って油を絞ってもらうお話からです。


[搾油所に持って行って油を絞ってもらう]
搾油所に実を持って行って油を絞ってもらう時は、浜乃木町にあった搾油所で絞ってもらったそうです。今もその搾油所があるかどうかわからないとのことでした。

今でも現役の搾油所が出雲に一箇所、雲南に一箇所あると聞きますが、確認していません。

椿油は天ぷら油に最高で、山茶花油はそれよりさらに上等だそうです。
また、髪油としても最高で、特に女性の髪によいとのことでした。今でも、例えば京都にこんなお店もありますね。

■かづら清老舗 http://www.kazurasei.co.jp/

その他に、どんな使われ方をしたのでしょうか。

椿の材は緻密ですが、桜や樫のように鍬の柄や敷居等に使われるのは見たことがないそうです。和傘の上部と中間の骨受けには使われたそうです。


緻密で思い出しましたが、私の知人がヤブツバキの材も使って木口版画というものをやっています。

■松岡淳 版画家・イラストレーター https://atsushimatsuokawe.jimdofree.com


こういった年配の方のお話は書き留めておかないといずれ忘れ去られてしまうかもしれませんので、ここに記してご紹介しました。

2015年4月3日金曜日

椿について、年配の方に聞きました(前編)

先日、松江市役所近くの末次公園に行きましたところ、椿が咲いていました。



ヤブツバキは島根大学の演習林でもよく見られます。葉はこんな感じ。三瓶演習林で撮った写真です。


椿は松江市の「市の花」になっています。


松江城には椿が植えられ、かつては刀の錆止めに使われていたとも聞きます。
(ダッチオーブンの錆止めにオリーブオイルを塗るのを連想しました。)

出雲とも関わりがあるようで、東京は銀座の花椿通りには、出雲市から贈られた椿が植えられているそうです。

■銀座花椿通り http://ginza-hanatsubaki.jp/


そんな椿について、松江市在住の90歳代前半の方から、かつての椿利用についてのお話を聞きましたので、ご紹介します。
(ここまで「ヤブツバキ」と書いたり「椿」と書いたりして来ましたが、以下では「椿」にします。種名としてはヤブツバキですが。)

椿油と言いますと、伊豆大島か五島列島かという印象がありますが、かつては松江でも使われていたそうです。
椿の実を初秋から実が落ち終わるまでの間に採り、自宅で煮て油を採るか、搾油所に持って行って油を絞ってもらうかしたそうです。

椿の実の写真はこちらをどうぞ。

■ヤブツバキの果実と種子 植物生態研究室(波田研) 岡山理科大学 http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/choripetalae/theaceae/yabutsubaki/yabutsubaki4.htm


[煮て油を採る]
煮て油を採る場合は、およそ以下のようにしたそうです。

焙烙(ほうろく)鍋で椿の実に熱を加えて、実を砕く。
   ↓
大鍋に湯を沸騰させて、砕いた実を入れ、タケを薪として燃やし、熱する。
*孟宗竹(モウソウチク)を乾燥させた薪でないと火力が弱く、駄目になる。
*火の加減があり、出入りの老女が秋毎に来て煮てくれた。
   ↓
上に浮いた油を別の容器に取り、水と油に分離させる。

一斗(約18L)入りの竹籠2杯くらいの実で、一升瓶(約1.8L)2本くらいの油が採れたように記憶しているとのことでした。


今回はここまで。次回は、[搾油所に持って行って油を絞ってもらう]その他についてご紹介します。